「不良品の発生原因が特定できない」「対策を打っても同じトラブルが再発する」「会議で意見が出ても、結局何が真因なのかまとまらない」。
製造業の現場では、日々こうした問題解決の壁にぶつかります。
その壁を突破し、問題の根本原因(真因)を視覚的に洗い出すための強力なフレームワークが「特性要因図(とくせいよういんず)」です。
別名「フィッシュボーン図」とも呼ばれるこの手法は、QC7つ道具の一つとして世界中の工場で使われていますが、正しく使いこなせている現場は意外と多くありません。
この記事では、特性要因図の基本的な定義から、製造業に不可欠な「4M」を使った具体的な書き方、エクセルでの作成方法、そして「なぜなぜ分析」との組み合わせ方までを徹底的に解説します。
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特性要因図(フィッシュボーン図)の基礎知識
まずは、言葉の定義と、なぜこの図を使う必要があるのかを整理しましょう。
「要因特性図」と「特性要因図」の違いと正しい定義
検索などで「要因特性図」という言葉を見かけることがありますが、正しくは「特性要因図(Cause and Effect Diagram)」です。
- 特性(Result):現在起きている「結果」や「問題点」(例:寸法不良、納期の遅れ)。
- 要因(Cause):その結果をもたらしたと考えられる「原因」。
つまり、「結果(特性)」に対して、どのような「原因(要因)」が影響しているのかを体系的に整理した図のことを指します。
魚の骨に見立てる:背骨・大骨・中骨・小骨・孫骨の役割
この図は、その形状から「フィッシュボーン図(魚の骨図)」とも呼ばれます。構造を理解することが作成の第一歩です。
[Image of Fishbone diagram structure showing head, spine, and bones]
- 背骨:図の中央を走る太い線。右端の「頭」部分に解決したい「特性(結果)」を書きます。
- 大骨:背骨に向かって伸びる大きな矢印。要因を分類する大きな視点(後述する4Mなど)が入ります。
- 中骨・小骨・孫骨:大骨から派生する細かい要因。原因を深掘りしていくことで、どんどん枝分かれしていきます。
なぜ製造業で重要なのか?視覚化がもたらす3つのメリット
頭の中で考えるだけでなく、図として書き出すことには大きなメリットがあります。
- 全体像の把握:複雑に絡み合った要因を整理し、抜け漏れを防ぐことができます。
- ノウハウの共有:ベテランの経験則(暗黙知)を書き出すことで、チーム全員の知識として共有できます。
- 真因の特定:表面的な事象だけでなく、奥にある根本原因にたどり着きやすくなります。
QC7つ道具における特性要因図の立ち位置
特性要因図は、品質管理(QC)で用いられる「QC7つ道具」の一つです。
品質管理に欠かせない「QC7つ道具」とは
QC7つ道具とは、数値データを分析して問題を解決するための7つの手法です。
| 道具名 | 主な役割・用途 |
|---|---|
| 特性要因図 | 原因の追求(要因の整理・体系化) |
| パレート図 | 重要課題の選定(何から手を付けるべきか) |
| ヒストグラム | データのばらつき把握 |
| グラフ・管理図 | データの推移・変化の監視 |
| チェックシート | データの記録・点検 |
| 散布図 | 2つのデータの相関関係の確認 |
| 層別 | データをグループ分けして比較 |
パレート図やヒストグラムとの使い分け
他の道具(パレート図やヒストグラム)は、主に「現状がどうなっているか」というデータの分析に使われます。対して特性要因図は、「なぜそうなったのか」という原因の追求に使われます。
つまり、「パレート図で取り組むべき重要課題を決め、特性要因図でその原因を探る」という使い分けが一般的です。
【図解】特性要因図の構成要素と4Mの重要性
製造業で特性要因図を作成する場合、大骨(分類の視点)を適当に決めてはいけません。ここで登場するのが「4M」です。
大骨を決めるフレームワーク「4M」とは
4Mとは、要因の「ヌケモレ」をなくすために用いられる、製造現場の4つの基本要素です。 以下の4つの頭文字をとっています。
- Man(人):作業者のスキル、疲労、不注意、教育不足など
- Machine(機械):設備の故障、精度の狂い、治具の不具合など
- Material(材料):原材料の品質ばらつき、在庫保管状態、メーカー変更など
- Method(方法):作業手順、条件設定、温度・時間管理など
この4つを「大骨」に据えることで、製造現場のトラブル原因を漏れなく洗い出すことができます。
4M以外の切り口(4S・環境・測定など)の活用法
状況によっては、4Mに以下を加えた「5M+1E」などで分析することもあります。
- Measurement(測定・検査):測定器の誤差、検査基準の曖昧さ
- Environment(環境):温度、湿度、照明、騒音、振動
【実践ステップ】特性要因図の正しい書き方と手順
それでは実際に、特性要因図を作成する手順を解説します。
STEP1:解決したい「特性(結果)」を明確にする
まずは、解決すべき問題を具体的に定義し、図の右端(魚の頭)に書きます。
悪い例:「不良が多い」
良い例:「Aラインの製品Bにおける寸法不良」
具体的であればあるほど、原因を絞り込みやすくなります。
STEP2:背骨を引き、大骨(4Mなどの視点)を配置する
左から右へ背骨を引き、上下から斜めに大骨を引きます。製造業であれば、大骨の名称は迷わず「Man」「Machine」「Material」「Method」とします。
STEP3:ブレインストーミングで要因(中・小・孫骨)を深掘りする
ここが最重要ステップです。関係者を集めてブレインストーミングを行い、「なぜその問題が起きたのか?」を書き出していきます。
「機械の振動が大きい(中骨)」→「固定ボルトが緩んでいた(小骨)」→「点検マニュアルがなかった(孫骨)」のように、要因をどんどん分解して繋げていきます。
STEP4:重要要因(真因)を特定し、印をつける
出尽くした要因の中から、「これが主原因(真因)だろう」と思われるものに赤丸などをつけて特定します。これらが、次の「改善対策」を打つべきターゲットとなります。
特性要因図と「なぜなぜ分析」の組み合わせ方
特性要因図とセットで語られることが多いのが「なぜなぜ分析」です。両者は競合するものではなく、補完し合う関係にあります。
要因の洗い出しには「特性要因図」、深掘りには「なぜなぜ分析」
特性要因図は、視野を広げてあらゆる可能性(要因)を網羅的に洗い出すのに適しています。
一方、なぜなぜ分析は、特定された要因に対して垂直に深く掘り下げていくのに適しています。
特性要因図の中骨・小骨・孫骨を書いていくプロセスそのものが、簡易的な「なぜなぜ分析」になっているとも言えます。
「なぜ」を5回繰り返して根本原因にたどり着くコツ
トヨタ生産方式で有名な「なぜを5回繰り返す」手法です。
「機械が止まった」→なぜ?→「ヒューズが切れた」→なぜ?→「過負荷がかかった」→なぜ?→「軸受が潤滑不足だった」→なぜ?→「ポンプが壊れていた」……
このように繰り返すことで、表面的な「ヒューズ交換」ではなく、「ポンプの点検」という根本対策にたどり着けます。
【無料テンプレートあり】エクセルで特性要因図を効率的に作る
現場では模造紙やホワイトボードを使うのがベストですが、報告書や共有資料として残すにはデジタル化が必要です。
エクセルを活用するメリットとデメリット
- メリット:誰でも使えて修正が容易。テンプレートが豊富。
- デメリット:矢印やテキストボックスの配置が面倒。レイアウトが崩れやすい。
すぐに使えるエクセル作成の基本テクニック
エクセルで作る際は、「挿入」タブの「図形(オートシェイプ)」を使います。矢印とテキストボックスを組み合わせて作成します。また、セルを方眼紙のように小さく設定しておくと、配置の微調整がしやすくなります。
インターネット上には無料のエクセルテンプレートも多く公開されているので、「特性要因図 エクセル テンプレート」で検索して活用するのも手です。
作図に特化した無料ツールやソフトの活用(EdrawMaxなど)
エクセルでの作図が手間に感じる場合は、作図専用ツールがおすすめです。「EdrawMax」や「XMind(マインドマップツール)」などは、ドラッグ&ドロップで直感的にフィッシュボーン図を作成でき、見た目も美しく仕上がります。
製造現場における特性要因図の活用事例
具体的なトラブルに対して、どのように展開されるか見てみましょう。
事例1:製品の寸法不良発生時の原因究明
- Material:材料の硬度にバラつきがあった。
- Machine:切削刃の摩耗が進んでいた。
- Method:加工速度の設定が標準より速かった。
- Man:新人が担当しており、摩耗の予兆に気づけなかった。
事例2:設備停止(チョコ停)の頻発対策
- Machine:センサー位置がずれていた。
- Environment:粉塵が多く、センサーが誤作動していた。
- Method:清掃頻度が週1回では不足していた。
作成時の注意点と「使えない図」にしないコツ
形だけ作って満足してしまうのは、最も避けるべきことです。
「要因」と「対策」を混同しない
要因には「〇〇がない」「〇〇しにくい」といった事実や状態を書きます。「〇〇を徹底する」といった対策や精神論を書かないように注意しましょう。
現場の声を反映させる(机上の空論にしない)
会議室の中だけで管理者が作成すると、現場の実態と乖離した図になりがちです。必ず現場の作業者を交えてブレインストーミングを行うか、作成した図を現場で確認してもらう工程を挟みましょう。
作成して終わりにせずPDCAサイクルを回す
真因を特定したら、改善策を実行(Do)し、効果を確認(Check)し、標準化(Act)しなければ意味がありません。特性要因図はあくまでスタート地点です。
特性要因図に関するよくある質問(Q&A)
作成時によくある疑問にQ&A形式でお答えします。
Q. 特性要因図は、製造業以外でも使えますか?
A. はい、あらゆる業界の「問題解決」に有効です。
営業の「売上が伸びない」、事務の「入力ミスが多い」といった課題にも使えます。その際、大骨の「4M」は「4P(Product, Price, Place, Promotion)」など、テーマに合わせて変更して構いません。
Q. 作成にはどれくらいの時間がかかりますか?
A. ブレインストーミングを含めて「30分〜1時間」が目安です。
時間をかけすぎると議論が停滞します。まずは短時間で要因を出し切り、その後の「対策」と「実行」に時間を割くことが重要です。
まとめ:特性要因図で「真の原因」を見つけ出し、再発防止を仕組み化しよう
本記事では、製造業の問題解決に欠かせない「特性要因図(要因特性図)」の意味から、4Mを活用した具体的な書き方、エクセルでの作成方法までを解説しました。
特性要因図を作成する最大の目的は、きれいな図を書くことではなく、「問題の真因を特定し、解決すること」にあります。ブレインストーミングを通じて現場の知恵を集め、4Mの視点で漏れなく要因を洗い出すことで、これまで見過ごされていた課題が浮き彫りになるはずです。
しかし、特性要因図で「原因」までは特定できても、その後の「対策」と「継続的な管理」が伴わなければ、同じ問題が再発してしまいます。
- 原因が「計画の無理」だった場合:精度の高い生産計画が必要です。
- 原因が「部材の欠品」だった場合:正確な在庫管理が求められます。
- 原因が「進捗の遅れ」だった場合:リアルタイムな工程管理が不可欠です。
このように、特定された課題を根本から解決し、工場の「仕組み」として定着させるためには、生産管理システムの導入が非常に有効です。
もし、特性要因図で見えてきた課題に対し、「アナログ管理の限界」を感じているのであれば、クラウド型生産管理システム「鉄人くん」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
「鉄人くん」は、製造業特有の課題に寄り添い、生産計画から工程管理、在庫管理までを一元化することで、無理・ムダ・ムラのない生産体制をサポートします。特性要因図で現場の「見える化」を行った次は、システムで業務全体の「効率化」を実現しましょう。
また、トライアルキャンペーンも実施していますので、生産管理システムの導入を検討してみたいとお考えの方は、こちらからお気軽にお問合せ・ご相談ください。
参考文献
- Wondershare『EdrawMax』— https://www.edrawsoft.com/jp/edraw-max/
-
XMind Ltd.『XMind』— https://jp.xmind.net/



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